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Welcome to Yuzaki Lab
    慶應義塾大学医学部柚崎研(神経生理学)では「神経活動や環境の変化が、どのようにして記憶・学習を引き起こし、どのように神経回路網そのものを変化させるのか」というテーマに沿って研究を行っています。詳しくはこちら
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2013

運動学習の獲得には平行線維シナプスLTDが必須だが記憶の維持には不要 (Front Neural Circuits)2013.11.18

Emi K, Kakegawa W, Miura E, Ito-Ishida A, Kohda K, Yuzaki M. Reevaluation of the role of parallel fiber synapses in delay eyeblink conditioning in mice using Cbln1 as a tool. Front Neural Circuits. Epub.

http://www.frontiersin.org/neural_circuits/10.3389/fncir.2013.00180/abstract

運動に関連した記憶学習には小脳が必須です。Marr-Albus-Itoにより、シナプス可塑性の1つである長期抑圧(LTD; Long-Term Depression)が、小脳平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおいて起きることがその実体であると考えられてきました。しかし近年、LTDではなく、その逆の現象である長期増強(LTP; Long-Term Potentiation)が運動学習を担うという報告がなされました。またLTDやLTPが運動学習の獲得・維持・想起のどのステップにどのように関与するのかもよく分かっていません。Cbln1遺伝子欠損マウス(Cbln1 KO)では平行線維-プルキンエ細胞シナプス形成が著明に障害され小脳失調を示します。Cbln1 KOマウスの小脳に組み替えCbln1を注入すると、2日以内に平行線維-プルキンエ細胞シナプスが正常化することがこれまでに分かっていました。そこでこの論文では、Cbln1 KOマウスに瞬目条件付け学習(運動学習)を行い、学習誘導後のさまざまな時点に組み替えCbln1を注入することにより、学習のさまざまな時期における平行線維-プルキンエ細胞シナプスの機能の関与を検討しました。Cbln1 KOマウスでは運動学習が障害され、平行線維-プルキンエ細胞シナプスではLTDが起きませんが、LTPは正常に誘導されることが分かりました。組み替えCbln1投与によってLTDが正常化すると運動学習も誘導できましたが、運動学習の維持には正常な平行線維ープルキンエ細胞は不要であることがわかりました。この仕事は大学院生OBの江見さん(現SONY)を中心とする仕事です。

神経活動によるStargazinの脱リン酸化がアダプタータンパク質との結合を促進することにより長期抑圧を引き起こす (Nature Communications)2013.11.12

Matsuda S, Kakegawa W, Budisantoso T, Nomura T, Kohda K, Yuzaki M. Stargazin regulates AMPA receptor trafficking through adaptor protein complexes during long–term depression. Nat Commun. Epub.

http://www.nature.com/ncomms/index.html

シナプス可塑性の1つである長期抑圧(LTD; Long-Term Depression)は、樹状突起におけるAMPA受容体の数が減少することによって、シナプスでの情報伝達の効率が長期的に低下する現象です。しかしどのようなメカニズムによってAMPA受容体の数が制御されるのかは良くわかっていません。このメカニズムの解明は脳機能の理解を深めるのみではなく、さまざまな脳神経疾患の解明や治療法の開発に繋がることが期待されています。細胞膜に存在する「膜タンパク質」は細胞内で合成された後に細胞膜(細胞表面)へと運ばれます。膜タンパク質は細胞外の情報を受け取り、細胞内に伝達する機能を果たします。例えばAMPA受容体はグルタミン酸と結合することによって神経細胞を興奮させます。細胞表面に存在する膜タンパク質の量は、細胞内から細胞膜への輸送と、細胞膜から細胞内へ取り込む速度のバランスによって精密に制御されています。この後者の過程は一般にAP-2あるいはAP-3Aアダプタータンパク質によって制御されます。しかしAMPA受容体の細胞内への輸送がどのようにアダプタータンパク質によって制御されるのかはこれまで謎でした。この論文では、AMPA受容体と強固に結合するタンパク質であるStargazinが、神経活動の亢進に伴って脱リン酸化されるとAP-2およびAP-3Aに強く結合することを発見しました。その結果、AMPA受容体-Stargazin複合体は細胞内へ効率よく取り込まれ、長期に渡って細胞表面のAMPA受容体の数が減少します。今回の研究により、これまで謎であった記憶・学習に直結するAMPA受容体の細胞内輸送機構が初めて明らかになりました。Nature Communicationsにオンライン掲載となりました。
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Rab8aとbは頂端膜への輸送に必須だが繊毛形成には不要 (J Cell Sci)2013.11.11

Sato T, Iwano T, Kunii M, Matsuda S, Mizoguchi R, Jung Y, Hagiwara H, Yoshihara Y, Yuzaki M, Harada R, Harada A. Rab8a and Rab8b are essential for multiple apical transport pathways but insufficient for ciliogenesis. J Cell Sci. Epub.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24213529

大阪大学原田先生との共同研究です。プルキンエ細胞での側底膜への輸送異常の有無について松田講師が検討しました。

CAPS1は有芯小胞の輸送とゴルジ構造を制御する (J Neurosci)2013.11.7

Sadakata T, Kakegawa W, Shinoda Y, Hosono M, Katoh-Semba R, Sekine Y, Sato Y, Tanaka M, Iwasato T, Itohara S, Furuyama K, Kawaguchi Y, Ishizaki Y, Yuzaki M, Furuichi T. CAPS1 Deficiency Perturbs Dense-Core Vesicle Trafficking and Golgi Structure and Reduces Presynaptic Release Probability in the Mouse Brain. J Neurosci. 33:17326-34, 2013

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24174665

群馬大学定方先生、東京理科大学古市先生との共同研究です。掛川講師が電気生理学を担当しました。

デルタのない世界―デルタ2受容体を欠損する患者家系 (Neurology)2013.10.1

Hills LB, Masri A, Konno K, Kakegawa W, Lam A-TN, Lim-Melia E, Chandy N, Hill RS, Panlow JN, Al-Saffar M, Nasir R, Stoler JM, Barkovich AJ, Watanabe M, Yuzaki M, Mochisa GH. Deletions in GRID2 lead to a recessive syndrome of cerebellar ataxia and tonic upgaze in humans. Neurology. published ahead of print September 27, 2013

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=24078737

デルタ2受容体を欠損したヒトの2家系の報告です。一つの家系では、私たちがマウスの突然変異ho-15Jで報告したものと全く同じexon 2が欠失しています。ヒトではマウスと異なり小脳萎縮が進行性に進むことが特徴的です。今後同様の家系が見つかるものと考えられます。この研究はHarvard大学Ganesh Mochida先生と北海道大学渡辺研究室との共同研究です。

δ2受容体はLTDが起きるかどうかを決めるgatekeeper (Commun Integr Biol)2013.9.27

Kohda K, Kakegawa W, Yuzaki, M. Unlocking the secrets of the delta2 glutamate receptor: a gatekeeper for synaptic plasticity in the cerebellum. Commun Integr Biol. Epub.

https://www.landesbioscience.com/journals/cib/article/26466/

下記PNAS論文に書ききれなかった考察も含めたshort reviewです。

LTD or not?―長期抑圧(LTD)が起きるかどうかを決めるマスター鍵はデルタ受容体 (PNAS)2013.2.20

Kohda K, Kakegawa W, Matsuda S, Yamamoto T, Hirano H, Yuzaki M. The d2 glutamate receptor gates long-term depression by coordinating interactions between two AMPA receptor phosphorylation sites. Proc Natl Acad Sci USA. 110:E948-57, 2013

http://www.pnas.org/content/early/2013/02/15/1218380110

小脳における運動記憶は、小脳顆粒細胞―プルキンエ細胞間のシナプスの可塑性である長期抑圧(LTD)が必須であると考えられています。デルタ2型グルタミン酸受容体を欠損するマウスではLTDが起きません。しかしその原因やメカニズムは謎のまま残されていました。本論文ではついにこの謎を解くことに成功しました。デルタ2受容体はLTDが起きるか起きないかを決定するいわばマスター鍵として作用していることが判明しました。この仕事は幸田講師・掛川講師のco-first author論文です。