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    慶應義塾大学医学部柚崎研(神経生理学)では「神経活動や環境の変化が、どのようにして記憶・学習を引き起こし、どのように神経回路網そのものを変化させるのか」というテーマに沿って研究を行っています
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「ゑれきてる」インタビュー

(終)

fMRIの進歩

未解明のことは多いのですが、個体レベルの記憶の研究も進んでいることも確かです。この20年くらいの間に、fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging:機能的磁気共鳴画像法)の進歩で、ヒトや高等動物の脳の活動がかなり画像化できるようになってきました。どんな課題を与えたときに、脳のどこが活性化するかというところは細かいレベルまでわかってきています。
MRIは、脳血流の変化を見ているにすぎないのですが、それはそれで有用な情報が画像化されます。ただ、空間、時間解像度の問題もあります。今、一番いいfMRIでも万のオーダーの神経細胞の数の血流量の平均値を見ています。神経細胞に電極を当てるなどの方法で反応を調べる電気生理学の対象は、神経細胞1個から10個、100個単位のレベルです。何万という多数の神経細胞の平均値では、本当は何が起こっているのかわからないのではないかという問題はありますから、今後、解像度を上げるための改良が必要だと思います。

磁気で脳の活動に介入

現在の、脳科学の大きな流れとしては、脳の活動を画像化するだけでなく、脳の活動に介入できるようになったことです。
磁気で脳を刺激するTMS(Transcranial Magnetic Stimulation:経頭蓋磁気刺激法)は、脳卒中後のリハビリなど臨床の現場で応用されています。
ヒトの言語野に磁気をかけた後で言語テストすると、明らかに成績が落ちてきたりすることなどもわかっています。その場所の神経細胞が働かないと新しい単語を覚えられないとか、覚えていても想起できないとか、そういう因果関係ははっきりしてきたと思います。ただ、解像度がまだ悪いので、こちらも、技術的な改良に期待がかかります。

介入の手段として期待される光遺伝学

もうひとつの脳への有力な介入の方法は光遺伝学(Optogenetics)です。光遺伝学というのは変な名前ですが、光を当てると活性化するタンパク質の遺伝子を利用することから、名づけられました。光に反応するタンパク質を遺伝学的手法で、調べたい神経細胞に発現させます。その神経細胞に光を当てると、その神経細胞だけが発火、活動するわけです。逆に、光を当てられた神経細胞だけが発火が落ちるようにすることもできます。
光遺伝学はヒトへの適用にはハードルが高いですが、サル、マウス、ラットなどの実験で、脳内の本当に狙ったところの神経細胞集団だけを発火させることができます。たとえば、マウスで、覚醒の機能を持つと思われる神経細胞にこのタンパク質を発現させ、光を当てるとその活性が落ちるようにしておくと、光を当てた瞬間に、ころっと眠ってしまうという激烈な現象が起きます。
磁気による脳への介入は、ヒトに適用できますが、解像度は圧倒的に悪いのが短所です。光遺伝学は動物実験に限られますが、時間、空間解像度が高いことが有利な点です。たとえば、海馬の神経細胞のどこにどの時期に記憶のエングラムが最初にできるのか、どの時期に海馬から別のところへ移動するのかは、光遺伝学の手法で研究できる時代に入ってきたといえます。
TMSや光遺伝学で、個体レベルの脳の研究手段がやっと手に入ったという状況です。今までは、脳のある場所の神経細胞を破壊したり、薬を注入したりして介入していたため、神経細胞のある数以上の集団の活動にしか介入できなかったのですが、脳内の神経細胞にピンポイントで介入できるようになってきているのです。
わたしの研究でも光遺伝学を使おうとしています。現在の研究はマウスなどの脳の切片や、培養細胞を使って、たとえばAMPA受容体の増減などを見ているのですが、それが本当に個体レベルの短・中期の記憶に直接につながっているのかどうかを確認していく必要があります。まさに、マウスが何かを覚えようとしている瞬間に、光照射によってAMPA受容体の数を直接に増減させることができる可能性があります。

自我はどこにあるか

個体レベルの研究が、非侵襲の画像や、介入によって進んでいるといっても、わたしたちが本当に知りたいこと、たとえば、意識はどのようなメカニズムで、どこが関与して形成されているかなどになると、現在のところほとんどわかっていません。fMRIで、被験者に麻酔をかけて意識が消失するとき、あるいは麻酔から覚醒するとき、脳のどの部分のどこの活性が落ち、あるいは活性化するかは、血流の変化でわかりますが、それは意識なのか単なる覚醒なのか、区別がつかないところがあります。
自我がどこにあるかというような問題になると、さらに難しくなります。脳には、常により高次で全体をチェックしている構造はあると考えられるので、それが最終的に自我なのかと思ったりもしますが、推論にすぎません。こうした議論を不毛にしないためには、どうすれば不毛ではなくなるかを実験で明らかにしていく必要があります。結局、それはヒトの脳活動に非侵襲で安全に介入できるようにならないとわからないと思います。そういう手段ができれば、自分自身を実験台にして調べたいくらいです。
わたしは、入口は心身医学でしたが、神経生理学に入って、研究のレベルは、ミクロの分子レベルにどんどん下がっていきました。今後、マクロの個体レベルにどこまで上げていけるのかわかりませんが、臨床などへの応用のためにも、ミクロとマクロをつないでいきたいと考えています。 <2016.03>

(談 ゆざき みちすけ)

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