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    慶應義塾大学医学部柚崎研(神経生理学)では「神経活動や環境の変化が、どのようにして記憶・学習を引き起こし、どのように神経回路網そのものを変化させるのか」というテーマに沿って研究を行っています
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「ゑれきてる」インタビュー

(2)

速い興奮性神経伝達はイオンチャネル型グルタミン酸受容体

脳の中の情報伝達は、神経細胞の軸索(シナプス前部)から放出された神経伝達物質が、シナプスで結合している別の神経細胞の樹状突起や細胞体(シナプス後部)に存在する神経伝達物質受容体と結合することから始まります。脳の中には1000種類を超えるといわれているさまざまな神経伝達物質がありますが、その中で、わたしがお話しするのは、グルタミン酸とその受容体です。
一般に神経伝達物質受容体には、代謝型とイオンチャンネル型があります。代謝型受容体は、伝達物質と結合し細胞内の生化学的な応答によって信号を伝えます。一方、イオンチャンネル型受容体は、伝達物質と結合すると立体構造が変化してイオンチャンネルを開口させ、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどを神経細胞に流入させることによって情報を伝達します。このためミリ秒単位の速い情報伝達にはイオンチャンネル型が関与します。代謝型の受容体は速い情報伝達を調節するために使われていると考えられます。
脊椎動物における速い興奮性神経伝達を担うのは主にイオンチャネル型グルタミン酸受容体です。グルタミン酸は体内で豊富に合成される非必須アミノ酸であり、あまりにもどこにでも存在するため、神経伝達物質としての地位を確立したのは20世紀後半です。グルタミン酸受容体はシナプス伝達と可塑性を制御するもっとも重要なタンパク質です。

短・中期の記憶とAMPA受容体の増減

イオンチャンネル型グルタミン酸受容体にもいくつかのサブタイプがあります。速い神経伝達は主にAMPA(アンパ:α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸)受容体が担います。LTPやLTDといった短・中期の記憶を担うシナプス可塑性は、シナプスにおけるAMPA受容体の数の増減がその実体であることがこれまでの研究で明らかになっています。
大脳、小脳、脊髄など中枢神経系のさまざまな脳部位において感覚、認知、運動などに必須なミリ秒単位の速い情報伝達を担うのは、イオンチャンネルを速く開いて、速く閉じることができるAMPA受容体しかありません。短・中期の記憶の形成機構を解明するためには、シナプスにおいてAMPA受容体の数がどのようにして増えたり、減ったりするのかを理解することが必須となるわけです。

受容体を細胞内ににとりこむ詳細な機構

わたしたちの研究の成果の一つとして、短・中期のシナプス可塑性であるLTDが起きるときに、どのようにしてシナプスにおいてAMPA受容体が減少するのかを明らかにしました。
シナプスにおけるAMPA受容体は、細胞膜に埋め込まれた状態で安定して存在しています。畑に根をしっかりと生やした大根のようなイメージです。AMPA受容体の数を減らすためにこれを地面から引き抜くのは大変な労力が伴います。実際にはAMPA受容体が細胞膜に刺さった状態のままで細胞膜ごとAMPA受容体を細胞内に取り込みます。こうすれば神経活動に応じて再びAMPA受容体の数を増やすことも容易になります。
細胞膜の一部を細胞内に陥入させて小胞を形成させるためには、多くの場合は細胞膜を丸める分子であるクラスリン(clathrin)が必要なことがわかっています。構造が格子状(clathrate)なので、この名前がついています。クラスリンをシナプスに集積させるためにはクラスリンアダプタータンパク質AP2(adaptor protein)が必要です。わたしたちは、マウスの海馬(記憶と関係が深いとされる脳部位)の神経細胞を用いて、LTDを誘導する刺激を与えたときに細胞内カルシウム上昇によってまずシナプス部位においてホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸 (PIP2)という脂質が合成されることによってAP2やクラスリンを集積させることを明らかにしました。つまりPIP2を合成する酵素の活性が神経活動で制御されることが、記憶を制御する鍵の一つであることがわかったわけです。

AP2はスターゲイジンを介してAMPA受容体を選別輸送する

さてLTDが起きるときには、AMPA受容体だけが細胞内に取り込まれます。しかし細胞表面に存在するさまざまなタンパク質の中からAMPA受容体をどのように選別するのかはわかっていませんでした。わたしたちは、やはりマウスの海馬神経細胞を用いて、アダプタータンパク質AP2がAMPA受容体のサブユニットであるスターゲイジンというタンパク質と結合することによって、間接的にAMPA受容体のみを輸送小胞に取り込むことを発見しました。スターゲイジンというのは、変な名前ですが、マウスがてんかん発作を起こしたときの星を眺めているような(スターゲイジン)姿勢からきています。
結局、LTDを誘導する神経活動によって、シナプスにおいてPIP2という脂質が合成されることでAP2が増加してクラスリンによって細胞膜を内側に湾曲させます。さらにAP2はAMPA受容体のサブユニットであるスターゲイジンと結合することによって、AMPA受容体を選択的に集めて細胞内に取り込むというメカニズムがわかってきました。煩雑ですが、情報伝達を確実に、間違いのないようにするためのしくみではないかと思います。
シナプスの異常はさまざまな病気を引き起こします。AMPA受容体も認知症や神経変性疾患に関与していると考えられています。ですからこういうAMPA受容体の輸送制御の詳細な機構の解明は創薬などに結びつく重要な要素です。創薬ターゲットとしては、AMPA受容体そのものよりも、ひょっとしたらスターゲイジンに着目した方がいいのかもしれません。 <2016.03>

(つづく)

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